渚の交番 考察

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笑っている子どもたちを最後に見たのは、いつだっただろうか。

私は思い出すことが出来ない。

だからかはわからないが、子どもたちがとても楽しそうに海で泳ぎ、あかるい日の光のもといきいきと活動している様子の写真が渚の交番から届いた時には、その幸せな風景に不思議と涙ぐみそうになるほどであった。

海は決して優しいだけの存在ではない。
それは現在、日本人であれば誰しもが身に染みて理解している事柄だろう。

だが、私たちは海なしには生きてゆけない。
「海」という場は、私たちの体を作り、心を育む唯一無二の存在である。
だからこそ、人々は今一度「海」との関係性を考え、またその機会を子どもたちと平等に共有するべきであると私は考える。

渚の交番の誠意

渚の交番は、NPO法人宮崎ライフセービングクラブが運営している施設である。具体的な活動は3つ。「青色回転灯防犯パトロール活動」「水上バイク隊」そして「ライフセービング活動」。どの活動にも共通していることは、人を海から守り、そして人と海との豊かな関わり方の示唆を行う点にある。

また、渚の交番は昨年度より、少子化により部活動削減の憂き目にあっている宮崎市青島区の子どもたちに向けたプログラム「渚の教室」「ジュニアライフセービング教室」を開講している。
これらの教室で子どもたちは、宮崎のうつくしい青島の海で、その環境や海洋生物を学び、セルフレスキューの習得をすることが出来る。

この教室の素晴らしい点の1つに、あらゆる家庭の子どもが参加できるよう、会員費を年1,000円と設定しているところが挙げられる。NPOならではの方針なのかもしれないが、学びの機会は出来る限り平等であるべきだろう。青島地区の子どもたちが地元ではなく市内の中学校へ進学してゆく状況を鑑みても、この試みは、人を懐で選ばない広い門戸を備えていると同時に、地域の魅力を、学校を介さずダイレクトに次世代の地元民へ受け継いでゆける非常に貴重なプログラムであるともいえる。

正解を求めない笑顔

このような誠意溢れる運営手法を取れていることは、一重にオーストラリアのライフガードの実情を真摯に吸収し、その精神を鋭敏に感じ取った渚の交番代表の藤田和人氏があってのことなのだろうか。

写真にうつる子どもたちはもちろんのこと、藤田氏の笑顔にも 「はっ」 とさせられる何かがあるように私は感じる。悲観するわけではないが私の周りには、こんなにも屈託ない笑顔を持った大人はいない。もし私に子どもの教育権があるのであれば、ぜひとも藤田氏に子どもたちを任せたいと思う。あわよくば私もそこへ混ぜてもらいたいと思うほどである。

子どもたちは、立派なこころを持った、小さなおとなでもある。
私たちが子どもへ高圧的に、あるいは一方的にコミュニケーションを取ると、彼ら彼女らはそのみずみずしい心を閉ざし、考えることを止め、大人が求めている「正解」だけを探す人形と化す。それはもしかしたら「おとな」でも同じかもしれない。だが、子ども特有のデリケートさは確かに存在すると私は考える。
そして、藤田氏はそのデリケートな迷路を難なくあの笑顔で照らし突き進んでゆけるのではないだろうかと、勝手に妄想している。

それはたぶんきっと、藤田氏自体が「子ども」の心をもっているからなのだと思う。

今回、FAAVOに出しているプロジェクトの支援金の使い道を見ても、強くそう思う。
FAAVOの記事にはこうかかれている『宮崎ジュニアライフセービング」に参加する子供たちに専用のTシャツを作りたいと考えております。統一したものを身に着けることで、子供たちの士気を高めると共に、周りの仲間を思いやる気持ちを大切にしながら活動をしてほしいと思っています。

大抵の大人であれば、まとまった活動資金が手に入ったらもっと違うお金の使い方をするのではないだろうか。月1,000円しか支払っていない子どもたちへ良質な教育機会を提供するだけでなく、無償にT-シャツまでプレゼントする発想は、少なくともここ東京ではなかなか生まれないように思う。

どこかへいってしまったお揃いの何か

だが、子どもたちからすると、同じチーム・メンバーとお揃いのアイテムは何よりも大切な宝物だったりする。と思う。鹿児島に住む私の弟が、野球部メンバーとのお揃いのお守りを部活帰りに無くした時は、なぜか加勢に来た友人数名と一緒に号泣しながら道路を走り回って探していた。中学2年の春である。
そのお守りを、大学4年となった今でも彼が大切に持っているかはわからないが、夜、自販機のそばでお守りを見つけ連鎖的に上がった歓喜の叫び声、その一瞬だけは確かに、彼らにとってお揃いのお守りが命よりも大切な「何か」であったことを高らかに宣言していた。たとえそれが学校の家庭科の小姑先生がフェルトで作ったセンスのないお守りだとしても。

そういった、お揃いのアイテムが子どもたちにとっていかに大切か、必要か。
それを理解し、微小な運営資金をやりくりする中でFAAVOを使い何とかして子どもたちを喜ばせようとする藤田氏は、やっぱり子どもの心を持った優しくたくましい「おとな」なのだなと私は思う。

そんな藤田氏へ。
夏日刺す宮崎青島で、子どもたちが真新しいTシャツへ笑顔で袖を通す場面を想い描きながら、海の見えない東京渋谷より、心からのエールを。


▲NPO法人 宮崎ライフセービングクラブ 代表 藤田和人氏。

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